黒いベンツが海沿いの道を走る。窓から外を眺めながら雨宮梨奈はこの日を楽しみに胸躍らせていた。
「では、お嬢様。予定時刻になりましたらお迎えに上がります」
「分かったわ」
湘南海岸までくると車は止まる。執事である寺崎の言葉に彼女は頷くと、隣にいる彼氏の相馬晴彦へと顔を向けた。
「なんだか嬉しそうだな。梨奈、そんなに海にきたのが楽しいのか?」
「違うわ。晴彦とデートだから楽しいの」
「い、いきなり何言いだすんだよ!?」
常時笑顔でいる梨奈へと晴彦が尋ねる。それに答えると素足になり波打ち際へと駆けていった。一方の晴彦は、梨奈の言葉を聞いて照れくさそうに赤くなり困惑している。
イラスト提供は、nazuna719様。
「あははっ」
雲ひつつない爽快な快晴の下、はしゃぐ梨奈に彼は微笑ましげにその様子を見詰める。
「っ!おい、梨奈一人であんまり遠くまで行くなよ!」
暫く様子を見ていた晴彦だったが、海の中へと駆けていく彼女に慌てて声をかける。
「心配性ね。なら、晴彦もあたしのところに来ればいいじゃない」
「分かったよ」
それに彼女が言うと晴彦は苦笑して自分も素足になり駆けていく。
「それ」
「うわ?」
梨奈の側まできた途端に顔面に海水をかけられ驚く。
「やったな」
「きゃあ・・・ふふふ」
お返しとばかりに彼が海水をかける。それに悲鳴をあげた彼女だがおかしくなって笑う。
「ねえ。手、繋いで歩こう」
「あ、ああ」
暫く海水をかけ合い遊んだ二人は、浜辺に座り込み休憩していた。
その時唐突に梨奈が声をかける。それに晴彦が照れ隠ししながら同意する。
「・・・あたし、今日晴彦とデートするの楽しみにしていたのよ」
「俺だって、梨奈とこうやってデートできるのを楽しみにしていた」
静かな波の音を聞きながら浜辺を歩く。彼女の言葉に彼もそう言って微笑む。
「梨奈・・・俺、やっぱり梨奈の事大好きだ。だから、また一緒にここにデートにこような」
「あたしも晴彦が大好き!もちろん、また来年もここでデートしましょうね」
晴彦が不意に立ち止まると真っ赤になった顔で静かな口調で話す。
梨奈も頬を赤らめて笑顔で頷いた。
「梨奈?」
「さあ、駐車場までかけっこよ。あははっ」
つないでいた手が急に解かれ驚く彼に彼女は言うと駆け出す。
こうして学生探偵たちの束の間の休息は終わりを告げ、ひと夏の思い出は二人の胸に刻まれた。
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