侃々と靴音が響く。
笠口は魔宮夫人と共に地下道を歩いていた。
普段なら、笠口は魔宮夫人の後ろに付き従って歩いているが、今は魔宮夫人の前を歩いている。薄暗い中を歩くのには危険が伴うため、魔宮夫人の安全を確保するためにあえて前を歩いているのだ。建物は出口を封鎖してしまったから、目立たないように造ってあった扉を抜けて地下道から脱出してきたのだ。それははともかく、警官がいるのを仲間が見たというので、それをかいくぐるためにも真正面から出ていくことは出来ない。それでこの地下道を使うことにしたのだ。
やがて地下道は行き止まりへぶつかった。
目の前には壁があり、上に向かって梯子が取り付けられている。
これを登れば地上に出られる。
その梯子を前にして、笠口は立ち止まった。そして魔宮夫人を振り返ってにやりと笑って言った。
「さすが、すまいる菓子店ですね」
それに対して、魔宮夫人も笑みで答える。
「一介の菓子屋に私たちが助けられるとは思わなかったわね」
菓子から貸衣装まで――という幅広い守備範囲を請け負った珍奇な菓子屋があると聞いて、あらかじめいくつかの衣装を借りていたのだ。そのうちのひとつを、笠口と魔宮夫人は着ている。ふたりは――。
警官の格好をしていた。
「では行きます」
笠口は魔宮夫人に断ってから、ポケットに手を入れてスイッチを取り出した。
直方体の塊に赤いボタンの付いた簡素な作りの機械だった。
このボタンを押せば、地上で爆発が発生する。警官がいれば混乱することだろう。その混乱に乗じて地上に出れば、怪しまれずに逃亡することはわけもない。
笠口は、ボタンを押した。
地上で轟音が響いた。その音が、分厚い地面を通じて、くぐもった音として響いてくる。
「行きましょう、マダム」
笠口は梯子を昇り始めた。
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