巨大ロボット建造計画 1:誘拐

 性的な暴力を受けた――。
 それが不破詩織の主張だった。
 茜色の陽光が差す夕方の街の中を、相馬晴彦は歩いている。コンクリートにひびの入った悪路である。道の左右には、古びたビルが立ち並んでいる。
 晴彦が歩いているのは、そんな狭い悪路の真ん中だった。
 なんと言って良いのか分らない気まずさを感じながら、晴彦は片手で頭を描いた。性的な暴力――というのは、正直なところ大袈裟すぎると晴彦は思っている。でも、その〝暴力〟を受けた本人が暴力だというのだから、真っ向から否定することもできない。
 晴彦は、ぐしぐしと片手で髪を掻きまわした。そして、ああ、そういえば、赤く染めた髪もだいぶ伸びてきて、根元が黒くなってきていたっけなあ、などという余計な、そしてどうでもいい悩みが頭をよぎる。この気まずい空気から逃避するためにそんなことを考えたのかもしれない。ついでに、今着ているポロシャツの色なんかも気になったりする。よく着ているピンク色のポロシャツだが――。
 ――髪の色と被っているって、どうなのかな。
 なんていう、これもまたどうでもいいような悩みが浮かんでくる。やっぱり、この気まずい空気から逃れたい一心だ。だって、いくら何でも性的な暴力はないだろう、と晴彦は思う。
 なんだかいたたまれない気分になって、晴彦は視線を落とした。腰に巻いている赤いカジュアルベルトと、白いチノショートパンツから伸びる自分の足をなんとなく眺めながら、晴彦は黙ったまま歩いていた。
 そういえば、昼間に着信があったのを思い出した。友人からだった。
 なんでも、変装と声帯模写について助言がほしいという。
 どういうことなのか理由を聞いてみたところ、演劇を専攻しているその友人が、メアリーシェリーの書いた「フランケンシュタイン」という小説を舞台に乗せるのだとか。
 それで怪物の意匠や声を現実味のあるものに近づけたいからといって晴彦に相談することを思いついたらしい。
「俺は明智小五郎じゃないんだよ」
 と晴彦は始め突っぱねたが、
「それでもバイトでそういうのを活かしているじゃあないか」
 と反論を喰い、さらにあまり熱心に頼まれるものだから、晴彦はしぶしぶ承知したのだった。晴彦が変装や声帯模写を得意としているのは事実だった。そして、アルバイトでそれが大いに役立つこともある。
 ――フランケンの衣装も用意しないとなあ。
 などと、またひとつ余計な悩みが晴彦の頭の中に浮かぶ。それでも、晴彦の左右を挟む険悪な二人の雰囲気から逃れる事はできなかった。
 やはり気になる。晴彦は視線を横に逸らせ、自分の左側を歩いている少女を盗み見た。
 肩のあたりまで伸ばした青い髪を、黄色のリボンでおさげに結んでいる。丸い顔に丸い瞳。そして、丸くて大きな縁なしの眼鏡をかけている。
 その童顔には、いつもなら溌剌とした笑みが湛えられているのだが、今はまったくそんな様子はない。唇を尖らせ、普段は垂れ気味の眉尻を釣り上げて、誰が見ても、私は怒っていますという表情を浮かべている。
 不破詩織。
 それが少女の名前だった。体は小さいし顔も子どもっぽい。服装も、どちらかといえば子どもっぽいかもしれない。首にピンク色のチョーカーを巻き付け、さらにピンクと白の横縞模様の入った半袖のTシャツを着ている。その色合いが乙女を連想させる。その縞模様のTシャツの胸元にはアップリケがついていた。ハートの形をしたアップリケだ。そのアップリケは真ん中で二つに裂けており、左右で色が違う。左がピンク色で右が緑色だ。ピンク色の多い服装の中で、その緑色が栄えている。上半身はピンク色ずくめだが、足は白いテニススカートに包まれている。白い中にも、襞に沿って水色の縞模様が入っているから、夏のような暑い日には、その色合いが涼しげで調度いい。スカートから伸びる白い足は、とても細い。
 服装も体の大きさもどことなく幼い雰囲気を醸している。だから見ようによっては中学生か、もしかしたら小学生にも見えることがあるかもしれない。それでも、彼女は立派な大学生である。そして、その頭脳は群を抜いて優秀であることを晴彦は知っている。何せ学部は違うものの、晴彦も、詩織と同じ大学へ通っているのだから・・・・・・。彼女の所属は、青葉総合大学システム科学技術部電子情報システム学科だ。その秀でた頭脳で数々の発明をし、晴彦たちは何度もそれに助けられている。
 彼女とは、バイト先も同じだ。その詩織が――。
 性的な暴行を受けた――。
 そんな主張をしている。しかし、その整った服装から察するに、とてもそうは見えないし、実際に暴行など受けていないだろう。それは思い込みではなく、ほとんど事実と言っても良かった。なぜなら――。
 そこで晴彦は、視線の向きを変えた。
 詩織を見ていた視線を、今度は、自分の右を歩いている青年へ向ける。
 いつも見ている親友である。通っている大学も同じだ。見慣れているけれども、なんというか、相変わらずの好青年だな、という印象を晴彦はいつも受ける。まず、目が切れ長だ。しかも二重である。若干の憂いを帯びた雰囲気の、その切れ長の目には、いつもキザな様子で前髪がかかっている。茶色に染めたマッシュヘアの前髪が、やや長めなのだ。
 服装もまた洗練されていた。水色と白の縦縞模様の入ったカジュアルシャツの上に、七分袖の青いテーラードをまとっている。二枚重ねの着こなしは、夏にしては重たく感じるが、下半身を覆う白いショートパンツが軽快な雰囲気だ。そこから伸びる脚は、細くもたくましい。鍛え抜かれているだろうことは、素人でもひと目で分かる。
 イサム・ルワン・ラーティラマート。
 それが彼の名であった。その名前からも分かるとおり、彼は日本人ではない。親日国として名高いフィオ王国が彼の祖国である。日本人の母親とフィオ人の父親を持つ。いや、父親は〝フィオ人〟などという凡人を表すような言葉ではとても呼べない身分の持ち主だ。
 なんとなれば、その父親はフィオ人にして、フィオ王国の現国王なのである。つまりイサムは、王子なのである。一国を治める王家の第四王子。それがイサムという青年の身分だ。とはいえ、本人はそれを鼻にかけたりするような真似はまったくしない。気にしていないのだ。気にしていないあまり、うっかりと自分の身分を明かしてしまって大騒ぎになったことが過去にあるが、それ以来、大騒ぎにならないために黙っている、という以外の事情で、自分の身分を気にすることはないらしい。
 一般庶民から見たら雲の上の存在のような身分と、優れた容姿に恵まれたイサムだが、いつもどこか抜けているところがある。例えば今がそうだ。

 にこやかにしていれば、女性がわっと寄ってきそうな顔つきをしているというのに、その顔にはまったく笑みなどは浮いていない。むしろ、不貞腐れているといった様子だ。切れ長の目を細め、口をへの字に曲げている。無理もない。
 このイサムこそが、性的な暴力を働いた――と詩織が主張している張本人である。
 つまり晴彦は、左を自称性犯罪の被害者である童顔の少女、右をその加害者と呼ばれている容姿端麗な王子に挟まれて歩いているということだ。
 晴彦も含めて三人は、同じ大学へ通っているということもあり、また、同じバイト先で働いているものだから、こうして一緒に帰ることが多い。大抵は和気藹々としながら歩いてバイト先まで行くのだが、今日は殊更雰囲気が重かった。仕方がないだろう。何しろ――。
 性的な暴行――なのだから。
 それでも、性的な暴行などなかったに違いないと晴彦はやはり思っている。被害者を名乗る詩織と、その加害者にされてしまったイサムは、見たとおり晴彦を間に挟んでお互いに不機嫌な表情を作って対立しているように見えるが、もし本当に性的な暴行などがあったら、たとえ口を効かないにしても、その被害者と加害者がこうやって共に歩くはずがない。きっと何か小さな齟齬があって、それを詩織が大袈裟に扱っているのに違いない。
 そう考えれば、詩織はともかく、加害者呼ばわりされているイサムが不機嫌な顔をしているのも納得できるというものだ。
「それでさ」
 晴彦は、ひとつため息をついてから切り出した。学校を出てからずっとこの調子が続いているから、いい加減耐えられなくなってきたのだ。
「詩織は何をされたんだ」
 まずは自分の左を歩いている青髪の眼鏡女子に問いかけてみた。
 すると詩織は、きつい口調で答えた。
「だから言ったではないですか。イサムくんが私に性的な暴行を働いたのです!」
 眼鏡の奥の丸い瞳が、怒りを帯びている。彼女の瞳は普段から赤いが、怒りを顕わにすると、その赤がより強調される。
「そういうことじゃなくて」
 怒っているのは分かるが、容貌が幼いからそう怖くはない。と言っても、本人は本気だから、それをあしらうような真似はできない。一応真剣に事情を聴く。
「その性的な暴行っていうのは、具体的にはどんなことだったんだ?。たとえば体を触れたとか、無理やりどこかへ連れていかれたとか」
 晴彦は例をあげて説明するが、右隣を歩いているイサムがそんなことをするような人物ではないことを知っているから、言いながらも心苦しいところがある。その晴彦の質問に対して、
「それは言えないのです」
 詩織は一転、力のない声でそう答えた。丸い顔を下に向け、釣り上げていた眉も八の字に垂れ下がる。同時におさげに縛った青髪も垂れ下がった。心の底から力を失った――そんな雰囲気だ。
 なんだかこれ以上は踏み込めない気がして、晴彦はつい黙ってしまったが、かわりにイサムが反論した。
「僕は暴行なんてしていないじゃあないか!」
 そうか、と晴彦は思った。詩織が答えないなら、イサムに訊けばいいのだ。下を向いて黙ってしまった詩織を眺めていた晴彦は、首を百八十度捻って、威勢よく反論したイサムのキザな顔立ちへ視線を移した。
「何したんだよ」
「なんにもしてないよ!」
 と整った顔立ちの王子は断言した。ひどいことは何もしていないだろうということは聴かなくても分かるが、さすがに何もしていないということはないだろう。何かしらの刺激があったから、詩織はこんなにも怒り、しょげているのだろうから。
 しかし、それを説明してもイサムはきっと理解しないだろう。なんというか、イサムの思考というのは、とても簡単な回路でできているのだ。
「わかった。質問を変えるよ」
 晴彦は、こほん、と咳払いをしてから、ふたたび問い直した。
「いつからふたりはこんなに険悪な中になったんだ。その時、何があったんだ」
 その質問に、まずイサムが答えた。
「今日の昼休みからさ」
 そしてほとんど同時に、しかしやや遅れて、詩織が顔をあげてふたたび勢いのある声で言った。
「性的暴行があったのです!」
 またか――と思わずにいられない。その性的な暴行という言葉の具体的な内容を晴彦は知りたいと思っているというのに・・・・・・。なんと言えばそこを聴き出せるだろうか、と思案する暇もなく、すかさずイサムがこう言った。

「僕はただ眼鏡をはずしてほしいと言っただけだろう!」

 ――眼鏡?-
「どういうことだ」
 晴彦は、イサムの言い分がよく理解できなかった。晴彦が質問すると、イサムは正面を向いて腕組みをして、
「そのまんまの意味だよ」
 と答えた。
「そのまんまって」
「だから、眼鏡をはずしてほしいとお願いしたのさ」
 正面を向いたまま、イサムはその切れ長の目から、横目に鋭い視線を晴彦に送ってくる。
「なんでそんなことを頼むんだよ」
「だって――」
 イサムは、ひと際大きな声でそう言うと、いきなりその場に立ち止まり、体ごと晴彦に向き直った。そして片手の人差し指を立てて、それを詩織に突きつけながら、

「詩織ちゃんは可愛いじゃないか!」

 と、また大声を張り上げた。
「はあ?-」
「詩織ちゃんは可愛いだろ。だから僕は、その顔を素のまま見てみたいと思ったのさ! だから眼鏡をはずしてほしいと頼んだんだ! 僕は決して暴行なんてしていないし、いわんや触ってなどいない! なのに詩織ちゃんは僕を性犯罪者呼ばわりするんだ。ひどいじゃないか!」

「それを性的な暴行というのです!」
 晴彦の左から、詩織がイサムに直接抗議を始めた。
「私にとって、この眼鏡は体の一部なのです!」
 そう言って、詩織は両手の指先で、その縁なしの円い眼鏡の弦を摘む。
「これを取れっていうことは、もう人前で裸になれって言っているようなものなのです」
 ――それはないだろう。
 晴彦は心の中で呟いた。しかし声には出さない。もしそれを声に出して言ったら、晴彦は性犯罪者の味方をしたとして、生涯、詩織から怨嗟の目で見られるに違いない。かといって詩織の方を持てば、今度はイサムから、親友なのに裏切られたとか何とかいって、やっぱり非難を受けるに違いない。というか、それ以前に――。
 ――幼稚すぎる。
 そんな感じしかしない。片方は性的暴行を受けたと訴え、もう片方は、ただ眼鏡をとってほしいと頼んだだけなのだ。晴彦は片手で額を押さえ、下を向いた。そんな晴彦の頭越しに、イサムと詩織のふたりはお互いの言い分をぶつけ合う。

「僕は頼んだだけで、強制はしていないじゃないか! 厭なら断ればいいだけなのに、なんで、それが暴行なんだい!」
「イサムくんは背が高いから、体の小さな私からしたら恐怖なのです! いくら強制はしていないとしても、断れないのです!」
「いつだったか、僕の顔面に思いっきりパンチをくれたじゃないか。本当に怖いなら、そんなことはできないはずじゃあないのかい」
「あれは怖かったからこそ、つい手が出てしまったのです! 正当防衛なのです!」

 ――やっていられない。
 いかにも頭の悪い言い争いだ。第三者からすれば、きっとそう見えるに違いない。しかし、彼らは決して、馬鹿ではないのだ。
 まず、晴彦たちの通う青葉総合大学は、けっこう偏差値の高い名門校なのだ。そして何より、晴彦たちがバイトとして働いている場所は、日本でも屈指の名探偵の呼び声の高い、武智恭介の探偵事務所なのである。探偵事務所でバイトをする彼らは、決して雑用ばかりをこなしているわけではない。探偵そのものをバイトの業務として行っているのだ。
 探偵は馬鹿では務まらない。だから彼らは――ついでに自分も――頭が悪いわけでは決してない、と晴彦は思っている。
 ただ、ちょっとばかり、精神年齢というやつが低いのだ。たぶん。
 ふたりはなおも言い争っているが、晴彦の耳には、それは言葉としては入ってこなかった。もう雑音でしかない。それでも晴彦は、バイト先――つまり武智探偵事務所――では、事務所を留守にしがちな武智恭介にかわって、所長代理という立場をあずかっている。だからどんなに些細な争いでも収めなくてはならない。仲間同士で連携が取れていなければ、探偵という職業はとても遂行できないからだ。とはいえ――。

「そもそも私は可愛くなんてないのです! だから眼鏡をはずしたとしても、全然可愛くなんかないのです!」
「いいや詩織ちゃんは可愛いよ。そうでなければ眼鏡をはずしてほしいなんて頼みごとは思いつかないからね」
「それを言うならイサムくんだってイケメンなのです。イサムくんは人前で全裸になれと言われたら服を脱ぐのですか」
「僕はイケメンじゃないし、服を脱ぐ必要もない! だって眼鏡と服は別だからね!」

 もう何を主張し合っているのだか、てんで分らない。この口論を抑えるのは容易ではないだろう。
 ――誰か何とかしてくれ。
 と弱音を吐きそうになった時だった。

「あ、見つけた!」

 爽やかな声が聞こえてきた。
 背後からだった。
 晴彦は背後を振り返って、その声の主を確認した。
 五十メートルばかり離れたところに、少女の姿があった。
 腰のあたりまで伸ばした茶色の髪を、さらさらと風に靡かせている。豊かな胸が隆起する上半身は緑色のパーカーに包まれており、その胸元には「UNIVERSITY SIMBOLS」という文字が白く染め抜かれている。そして黒いドレスベルトを巻き付けた腰はほどよくくびれており、白いホットパンツから伸びる足は、白くて張りがある。
 雨宮梨奈。
 それが彼女の名前だった。彼女もやはり、晴彦たちと同じく青葉総合大学の生徒であり、また武智探偵事務所でアルバイトとして働く仲間だ。ついでに言うと、梨奈は晴彦の恋人でもある。
 長髪を風になびかせている恋人は、手を振りながら駆け寄ってきた。
「やあ、調度いいところに来てくれた」
 晴彦はそう言って梨奈を迎えたものの、詩織とイサムのふたりは梨奈を無視して、相変わらず渾沌とした言い争いを続けている。しかも、徐々に声が大きくなっている。この場所が路地裏だから良いが、もし公共の場所でやられたら迷惑――というか恥ずかしくて死ぬかもしれないところだったと思う。
 梨奈は、イサムや詩織に比べると、干菓子に対する愛情がやや強いということを除けば、かなりの常識人である。その梨奈が来てくれた。梨奈の力を借りれば、この不毛な言い争いも鎮めることができるだろう。そう期待したのだが、
「ねえ、詩織」
 梨奈はふたりが言い争いをしていることなど無視して、肩を怒らせてイサムに立ち向かっている詩織に呼びかけた。
「イサムくんの顔は科学的に言ってもイケメンなのです! まず目の横幅と目の間の間隔が――ん」
 どうしたのですか、梨奈――と詩織は、反論というべきか賞賛と言うべきか分からない発言を中断して、梨奈の顔を見た。

「ふふん」
 返事をされた梨奈は、何やら企みのありそうな笑みを浮かべている。普段は釣り目がちのその目は、ともすれば気が強そうな印象を相手に与えがちだが、ひとたび笑みを浮かべれば、その目は猫のような愛くるしさを醸すから不思議だ。
「どうしたのですか、梨奈。変な笑い方なんかして」
 詩織は怪訝そうに眉を歪めて、長髪を靡かせる梨奈の顔を見つめている。
「相変わらず詩織はイサムくんと仲がいいんだね」
 と言った。
「はあ?-」
 梨奈の言葉に、詩織と晴彦、そしてイサムも同時に疑問符を発した。

「仲良くなんかないさ」
「仲良くなんかないのです」

 詩織とイサムは同時にそう答えた。そしてふたりは、また同時にハッと息を飲む。なんとなく――ふたりの顔が赤くなっているように晴彦には見えた。
 ――やっぱり仲いいんじゃないか。
 と晴彦は思ったが、やはり声にはできない。
「仲良くないの?-」
 梨奈はこくりと小首を傾げて、頬に人差し指を当てた。
 しばらく沈黙が続いたが、やがて、
「仲良くなんてないのです」
 と先に詩織が言った。それに対抗するかのように、イサムもまた、
「そう、仲良くなんてないよ」
 と顔を逸らせながら言った。
 ――これが。
 これが巷で有名なツンデレという奴か――と晴彦はなんだかよくわからない納得をしていた。耳にしたことはあるが。実際に目で見るのは初めてだ。
 ほとんど思考を放棄していた晴彦をよそに、梨奈はさらに詩織に言った。
「じゃあ、イサムくんに彼女が出来ちゃっても詩織はいいんだね」
「えッ」
 詩織の顔が、一瞬きょとんとした表情になった。丸い目を大きく開き、軽く口が開く。
 しかし、詩織がその表情を見せたのは一瞬だけだった。
 本心は分からないが――というか、本心ではイサムに好意を寄せているだろうことはもうほぼ確信できるのだが――詩織は今までイサムと対立していた手前、そんな本心を見せるわけにはいかなかったのだろう。すぐに元のふくれっ面に戻ると、
「良いに決まっているのです」
 と断言した。
「こんな女たらしの唐変木は、どうなったって構わないのです」
 その言葉に、さすがのイサムも頭にきたらしい。細く整った眉を釣り上げて、イサムは言い返す。
「自分だって、設備がなければなんの発明もできないただの科学オタクじゃないか!」
「ひどいのです!」
 ふたりは睨み合う。
「ちょっと」
 梨奈としては、まさかこんな喧嘩になるとは思っていなかったのだろう。梨奈はふたりの間に割って入り、そして詩織に訊いた。
「本当に良いの」
 梨奈は猫のような笑みを消して、真剣な表情で詩織に確認する。そして梨奈が、その釣り目をぱちぱちと二回瞬かせたあと、詩織は、
「良いったら良いのです」
 と、あきらかに良くないだろうと思われる返事をした。
「そうなの」
 おそらく梨奈は、ちょっと詩織をからかってやろうという程度に思っていたのだろう。それが意外なまでに強烈な意地を張られてしまったので、しまったと思ったのかもしれない。それで引っ込みがつかなくなって困ってしまった――といったところか。梨奈の気持ちを、晴彦はそう想像している。ともあれ、梨奈が何を考えてそんなことを詩織に尋ねたのか晴彦にも分からない。イサムも理解できずにいるようだ。その端正な顔に疑問の色を浮かべている。
「じゃあ」
 梨奈は、冗談のつもりが冗談でなくなってしまった気まずさを引きずっているかのように、いくぶん困惑した表情を浮かべながら、イサムに話しかけた。
「イサムくん。ちょっとこれを見てほしいの」
 梨奈はそう言って、白いホットパンツのポケットから携帯を出して、その画面をイサムに向けた。
「なんだい」
 イサムは、目にかかっている前髪を指で横にのけて、少し腰をかがめて梨奈の携帯の画面に顔を寄せた。晴彦も、横からその画面を覗き込む。詩織だけは、何かに耐えるかのように体を震わせながら、三人に背中を向けていた。
 梨奈が差し出した携帯の画面には――。
 ひとりの女性が写っていた。
 黒い髪を伸ばした、和風の美人だった。顔の特徴を活かした薄めの化粧を施し、自然な、でも少し恥ずかしそうな笑みを浮かべている。その控えめな感じから清楚な雰囲気を感じさせる女性だった。年齢は、晴彦たちよりも少し上、二十代前半といったところか。
「おお」
 とイサムが声をあげた。切れ長の目が、僅かに縦に開く。
「なんと美しい女性だ」
 恥ずかしげもなく、イサムはそう言った。イサムは上下に開いたその目を、携帯の画面から梨奈の顔へ移した。
「この人は誰なんだい」
 声がいくらか上擦っている。もう少しで押し倒してしまいそうになるくらいの勢いで梨奈に迫る。そのいきなりの接近に驚いたのか、梨奈は半歩後ろにさがって携帯をポケットにしまった。
「これは、あたしの友だちだよ。二十二歳で、今は第三国際銀行に務めてるの」
「銀行員なのかい」
 イサムの声は一段大きくなった。興奮を抑えているらしい。
「名前は?- 趣味は?-」
 とイサムは、矢継ぎ早に質問を投げかける。梨奈は両手をイサムに向けて押しとどめながら、速度の早い質問に、ようやく追いつくかのように端的に答えた。
「名前は安藤茜ちゃん。趣味はお菓子作りって聞いたことあるよ」
「なるほど」
 イサムは、何やら真剣な面持ちで顎に指を当てた。どんな動作をしても様になるのがイサムの特徴だ。こうして見ていると、まるで王子さまのようだと思うが、実際に王子だから晴彦としては若干の悔しさを感じる。親友ではあるが・・・・・・。いや、親友だからこそ、だろうか。

「それで梨奈ちゃん」
 容姿端麗の王子は、虚空を見つめていたその視線を梨奈に向けた。
「その茜ちゃんは、いつ僕と会いたがっているんだい」
「あのなあ」
 晴彦は、口を挟まなくてはいられなくなった。
「誰も会いたいなんて言ってないだろ」
 するとイサムは、驚いたかのように、おお、と声を漏らした。
「いいところに気がついたね、晴彦。その通りだ。さすが僕の親友。すごいよ」
「嬉しくない」
 妙な褒められ方をして、晴彦は静かに抗議をしたが、イサムはそれに関わらず、口を程よく開けて、爽やかに、
「あっはっは」
 と笑い声をあげている。白い歯が茜色の夕日を照り返してきらりと光る。顔いっぱいに好青年っぷりが満ちている。知らない女の子が見たらひと目で見とれてしまうことだろう。もっとも笑っている理由を聞いたら、その惚れた気持ちも一気に冷めるだろうとは思うが。
 しかしイサムは、きっと、そんなことは気にしていない。彼は好青年を演じている訳ではない。そして、梨奈の見せた女性が自分に会いたがっていると言ったのも、冗談などではなく、本気でそう勘違いしたからだ。イサムというのはそういう人間だ。〝素〟でキザなのである。
 まったく――と晴彦が疲労とともにため息を吐き出すと、
「それが、その通りなの」
 と梨奈が言った。
「その通りって、何が」
 晴彦が尋ねると梨奈は、
「茜ちゃんが会いたがってるの、イサムくんに」
「ええッ」
「本当かい」
 晴彦は驚きの声をあげ、イサムは歓喜の声をあげた。
「茜ちゃんは、どうして僕に会いたがっているんだい」
 まだ直接会ったことは一度もないというのに、イサムはすでに〝ちゃん〟付けで女性の名前を呼んでいる。人に対して、特に女性に対しては、イサムは友好的な意識が強いのだ。
「それがね」
 と梨奈は、その女性――安藤茜――がイサムに会いたがっている理由を話し始めた。
 そう難しい話ではなかった。
 休日に、梨奈が茜と昼食をともにした際、
「いい人いないかな」
 と茜が漏らしたのだという。そこで梨奈は、自分の知り合いとして、イサムの写っている写真を見せたのだそうだ。そうしたら――。
「会いたいって言い出して」
 と梨奈は話を結んだ。
「ちなみに、その茜ちゃんという女の子は、なんで僕に会いたがっているんだい。やっぱり一目惚れかい」
 イサムならその可能性は十分に考えられるが、それを臆面もなく自分から言うあたりが、イサムのイサムたる所以だ。
「一目惚れは余分だよ、イサムくん」
 と梨奈は注意したものの、そう言ってすぐに、でもね――と語調を変えた。
「その通りなの」
「まさか」
 晴彦が予感したことを口にする前に、それを先取りして梨奈が言った。
「一目惚れだってさ」
 悔しいわけではない。決して悔しいわけではないのだ。晴彦にも、梨奈という立派な恋人がいるのだから。それでも、一目惚れという理由で会ってほしいとお願いされるイサムに対して、何か腑に落ちないものを、晴彦は感じる。決して悔しいわけではないが。
「いやあ、照れるなあ」
 晴彦の心中など察することなく、イサムはそう言って、その茶色のマッシュヘアを片手で何度も撫でている。
「それで、いつなら会えるんだい」
 イサムの自己肯定感の強さに、梨奈も若干戸惑いを感じているようだが、それでも大切な友人のことだから言わないわけにはいかなかったのだろう。
「彼女は銀行勤めだから、平日は大抵は仕事。だから、土曜日か日曜日ならいいって言ってたけど――」
「分かったよ!」
 梨奈が言い終わらないうちに、イサムは答えた。
「今度の土日を空けておこう。その時に会うから、伝えておいてもらえるかい」
「ちょっと待てよ!」
 晴彦はふたたび割り込んだ。
「駄目だろ、今度の土日は。事務所の窓ガラスを直すから、緊急出勤だって言っておいたはずじゃないか」
「ああ!」
 そうだった――とイサムは言い、手の付け根を額に当て、ゆっくりと顔を横に振った。
「どうしよう。僕は、僕に期待する女性の想いを裏切ることになってしまう。これでは僕の矜恃が保てないよ」
 矜恃――などという言葉は、昨今日本人でもそんなに使わない。それを、この半フィオ人はよく知っていたものだ。

「もう良いのです!」

 いきなり大声が響いた。びくりと体を震わせて、晴彦は振り返る。梨奈もイサムも声に反応した。それぞれに驚いたような表情を顔に浮かべている。
 声を発したのは、詩織だった。
 見れば、詩織は涙を浮かべていた。大きな瞳は涙に潤んでいる。そして涙は、下瞼を超え、太い筋となって頬を伝っている。
「イサムくんの、イサムくんの――」
 詩織は眼鏡を片手で上にあげ、もう片方の腕で顔全体を擦っている。そして眼鏡を戻すや否や、
「イサムくんの馬鹿ッ!」
 と大きな声で叫んで、いきなり駆け出した。ほっそりとした足の割に、その跳躍力は並ではなかった。ほんの一歩駆けるだけで驚くほど距離が離れる。
「待てッ」
 と晴彦は叫んだ。
「ちょっと詩織!」
 梨奈も呼び止める。
「詩織ちゃん!」
 さっきまで口論をしていたイサムも、泣いて逃げていく青髪の少女の名を叫んだ。イサムはこだわりを持たない。たとえさっきまで言い争いをしていた相手でも、それが終われば次の瞬間には、平気で食事に誘うような潔さを持っている。こと詩織に関しては、詩織が嫌がるのを押してまで眼鏡をはずすことを頼んでいたくらいだから、喧嘩していたことよりも、自分が詩織に迫っていた気持ちの方が勝ったのかもしれない。

 イサムは詩織の名を呼ぶだけではなく、呼ぶと同時に駆け出した。しかしイサムの、見るからに鍛えられた足を持っても、詩織には追いつかなかった。
 少し遅れて、晴彦と梨奈も後を負う。
 失恋して駆け出すとか――。
 ――なに時代の青春ドラマだよ。
 そう思うが、放ってもおけないから晴彦は走った。
 いつの間にか日は沈み、闇となった街なかに、橙色の街灯が灯っている。夕日は茜色で、しかも逆光となるとものが見えにくかったが、それに比べて街灯の明かりは、程よい強さで明るすぎも暗すぎもしないし、逆光のような妙な角度にもならないから、かえってものが見やすい。
 走り出した晴彦だが、すぐにその足を止めることになった。
 詩織自身が、走るのをやめたからだ。
 晴彦の前に詩織を追っていたイサムも、晴彦と同時に駆け出した梨奈も、走っていた時の間隔を保ったまま、足を止めた。
 きっと、みんな疑問符を頭に浮かべていたに違いない。
 理由は、詩織が立ち止まった理由だ。
 詩織の前方には、脇道から飛び出してきた黒い自動車が、詩織の行く手を遮るかのように停車している。狭い路地裏だから文句を言う者はいないが、これが都会のど真ん中の交差点だったら、非難の嵐が沸き起こった上、警察まで出動する騒ぎになっていたところだろう。
 いったい何だ、と晴彦が思っていると、自動車の扉が開いて、ひとりの男が姿を現した。
 異形の男だった。
 まず何より目についたのは、こめかみに喰い込んでいるボルトだった。しかもそのボルトは、左右のこめかみから、同じくらいの長さで伸びている。まるで角を生やした鬼のようだ。
 さらに目をひいたのが、その肌の色だった。
 緑色なのである。人種によって肌の色は異なるが、もはやそういう程度の違いではない。緑色の人種などいない。
 しかもその男は巨漢だった。背は二メートルはあるだろうか。その長身に対して、横幅も凄い。黒いスーツを着こんでいるので、実際にどれくらいの筋肉の量があるのかは分からない部分もあるが、スーツ越しにも、腕の太さなどは、山小屋を建てる時に使う丸太ほどもあるのではないかと思えるくらいに太い。
 ――なんだ、あれは。
 と思っているうちに、男はこちらへ近寄ってきた。
 もっとも近くにいる詩織を通り越し、イサムの横を抜け、晴彦の隣を通り、そしてもっとも離れている梨奈のところへ到達する。
 巨躯である上に異形の男に近寄られた梨奈は、片足を後ろに下げるも、そこで踏みとどまった。怖いだろうことは理解できるが、男が悪漢かどうかはわからない。あからさまに逃げるのは失礼に当たると思って、それで踏みとどまったのだろう。
「なんですか」
 梨奈は、硬い声で問いかけた。
 ふっふっふ――と男は初めて声を出した。振動が地面を伝って腹に響いてくるかのような、低い声だった。晴彦の位置からでは、男の背後しか見えないが、その顔に残忍な笑みが湛えられているだろうことが想像できた。
 逃げろ――と晴彦は叫ぼうとしたが、その前に男が声をあげた。
「見つけたでゲス――」
 男はそう叫び、人差し指の先を梨奈に突きつけた。
「先進国日本における科学の申し子――不破詩織!」
「あたしは梨奈ですけど」
「なんだとッ――でゲス」
 男は忙しい様子で、その巨体を包む黒いスーツを両手でまさぐり始めた。そして、尻のポケットから何やら取り出して、それと梨奈を交互に見つめる。男が見ているのは、おそらく写真だろう、詩織の。
 やがて男は、両手で頭を抱えると、激しい雄叫びをあげた。
「全ッ然、違うじゃないでゲスか!」
 見間違えたとでもいうのだろうか。詩織と梨奈は少しも似ていないというのに。
「あたしに言われても」
 梨奈は、額に一滴の汗を流している。
「不破詩織はどこでゲスかッ」
 緑色の肌を持つ巨漢は、肩をいからせて大声で梨奈に問いかける。

「私ならここにいるのです」

 そう教えたのは、詩織自身だった。
 晴彦からもっとも離れた場所で、片手をあげて横に振っている。さっきまで泣き腫らしていたというのに、その表情はすでにあっけらかんとしたものに変わっていた。
 詩織の声に、男は振り向いた。そして、手に持っている写真と再度見比べる。
「あ! いつの間にそんなところにいたでゲスかッ」
「ずっといたのです。通りすぎたのはあなたの方なのです」
 詩織は腕組みをし、いかにも困ったというような表情で、
「それで、私に何のようなのですか」
 と言った。
「用、でゲスか。それは――」
 男はすでに梨奈には興味を失ったらしく、背中を向けている。そして、その太い足をゆっくりとした動作で動かしながら、一歩一歩、詩織に近づいていく。
「用は、でゲスね――」
 まるで地響きでも起きるのではないかという感覚を晴彦は覚える。頭にボルトの刺さった巨漢は、詩織に向かって歩きながら、口許に怪しげな笑みを浮かべている。そして詩織のそばまで行くと、男は立ち止まり、詩織を見下ろしながら、
「用は――」
 と言い、そして宣言するかのように大声で叫んだ。

「世界征服でゲス!」

「はあ?-」
 と晴彦は思わず疑問の声をあげる。おそらく梨奈もイサムも、そして詩織も、男の言葉を考え込んだに違いない。次に男がとった行動に、誰も咄嗟には反応できなかった。
 巨漢は、その腕力にものを言わせて、まるで小学生のような体格の詩織を担ぎあげると、自分が乗ってきた自動車の後部座席へ放り込み、そして自分は運転席へ乗って、走り去ってしまったのだ。

「あ!」
 みんなが叫んだのは、男が自動車で走り去ったあとだった。詩織を担ぎあげてから自動車が発進するまで、一分はあっただろうというのに、その間、晴彦も梨奈もイサムも――誰も、指一本動かせなかったのだ。
 男の異様な容貌と、その間の抜けた言動、いきなり詩織を誘拐するという突飛な行動が重なって、呆気に取られていたのだ。とはいえ、いくらなんでも反応が遅すぎるというものだ。悔やんでも仕方のないことだが。
「イサムくん!」
 梨奈が叫び、イサムに駆け寄っていく。
「どうして何もしなかったの! 詩織が誘拐されたちゃったじゃん!」
 体をいくらか前傾させて、梨奈はイサムに詰め寄る。それに対してイサムは、
「そ、そうはいっても、いきなりだったから」
 と、しどろもどろと言いながら、一歩ずつ後ろへさがっていく。
「それだって、少しは時間があったでしょ」
 と梨奈はまだ引かない。
「だってあの顔だよ。僕はてっきり、何かの企画かと思ったよ」
「何の企画だよ」
 と晴彦は、緩い批判をする。
「そういう晴彦だって動かなかったじゃないか」
 自分に詰め寄る梨奈の肩越しに、イサムは晴彦に反論した。
「だって、あの顔だぜ――あ」
 晴彦は言い訳をしようとして、イサムとまったく同じことを言っていることに気づいた。
 イサムに詰め寄っていた梨奈は、前傾させていた体を戻し、体の向きを変えて、力なく頬を人差し指で掻きながら、
「まあ、私も何も反応できなかったけど」
 と呟いた。
 そう、誰も、何もできなかったのだ。
「ああ、もう何なんだこの事態は!」
 晴彦は信じられない反応の悪さに苛立ちを感じて、赤い髪を掻きむしった。みんながどうして動けなかったのかはわからない。ただひとつ言えることは、アルバイトとして探偵をやっている晴彦たちが、目の前で起きた誘拐事件に対して、何もできなかったということだ。
 そして、誘拐されたのは、ほかでもない、晴彦たちの仲間なのである。
 黙ってはいられなかった。
 晴彦は頭を切り替えた。できなかったことを悔やんでも仕方がない。これからやるべきこと、できることを考えるべきだ。そう考えた。そして、それをイサムと梨奈にも告げた。
 ふたりは反対しなかった。それにしても――。
 あの男の最後の言葉が気になる。
 世界征服でゲス――。
 詩織に用を訊かれたあの巨漢は、そう言っていた。
 ――世界征服って。
 なんだろう、と晴彦は思う。まさか本当にそんな大それた野望を持っているわけはないだろうし、と思う。
 あの男は何を考えているんだろう。それだけがどうしても分からなかった。