かわぐち しゅん
ウエストアップイラスト(上)提供は、三神ひより様。
全身キャラクターデザイン(右)は、瀬田つづら様。
テニスウェア胸元のワンポイントマーク(下)のデザイン提供は、k-design様。
イラスト提供は、
俺の名前は川口 隼。
19歳、大学生。
都内の大学に通う為、実家を出て、今は小さなアパートに一人暮らしをしている。
大学で出来た親友の中村 蒼介と、テニスサークルに入り、青春を桜花している一般人だ。
そんな俺は早朝にランニングをしている最中だ。
「はぁ…はぁ…」
先程から気になっていることがある。
それは、家の鍵の閉め忘れだ。
あんなボロアパートに寄り付く人間なんて居ないとは思うが…。
そんなことを考えながら、少し早足に走った。
ーーーーーーーー
「ただいまー」
一人暮らしなので、誰も居ないのだが、一応毎日ただいまを言うようにしている。
シューズを脱ぎ、電気をつけたその時…
「誰だ!?!?!?」
俺の部屋に見知らぬ男がいた。
部屋は荒らされていて、男は右手に俺の財布と、左手には包丁を持っていた。
警察に…!!
と言ってもワンルームのこの距離では、いくら足のはやい俺が逃げたとしても、きっと追いつかれてしまうだろう。
それにランニングに行くだけの為、俺は何も持っていない。
携帯も財布も全て家に置いて行ったのだ。
考えていても仕方がない。
…逃げよう。
俺はいっきに駆け抜けようとしたが、足がもつれて転んでしまった。
「わっ!?!?」
「へへっ、勝手に転びやがった!」
男は床に倒れた俺に馬乗りになり、俺の首元に包丁を近付けた。
「ヒィっっ!?!?!?!?」
「暴れられたら厄介だからな…」
男は自分の鞄から布とロープを取り出した。
「何を…す…る…」
「黙れ!!!」
「…んんっ!?!?」
男は俺の口に丸めた布を無理矢理押し込み、その上からタオルで覆い、それを後ろでしっかりと結び、手足もロープで拘束されてしまった。
布のせいで声が出ない…!!
その上、体は動かない…。
「んん…ん…っ!」
「命が惜しかったら大人しくしろ!」
"俺、死ぬのかな…こわい…"
手足が震える。
"ダメだ…諦めちゃ…!"
そう思うのに目に涙が溜まって視界がぼやける。
誰か…助けて…
ドンドンッ
「おーい!隼!部活始まるだろ!」
玄関のドアを叩いたその人物は、俺の親友の中村蒼介だった。
俺が寝坊などした際、蒼介はいつも迎えに来てくれる。
「ったく…ビビらせやがって…」
男は慌てて包丁を構えた。
「あれ?隼いるのか?開けっ放しだぞ」
蒼介は中に入ろうとしている。
包丁を持った男は扉の横で蒼介が入ってくるのを待っている。
「んんっっ!!!ん…!んんっ…ん!!!」
蒼介!来るな!!こっちはダメだ!!!
そう言っているのに声が出ない。
ガチャリとドアノブが回された…
「あ、猫だ」
ドアノブが元にもどされ、蒼介は近くに居た猫の元へ向かった。
「ちっ…」
俺は少し安心したが、どの道蒼介はこちらへ向かうだろう。
暫くすると…
ガチャッ
「隼!おはよ…」
「動くな」
勢いよく部屋に入った蒼介は扉の影に隠れていた男に、背後をとられてしまった。
「誰だよあんた」
「うるさい。黙って中に入れ!」
「…わ、わかりました」
蒼介は男に向けられた包丁を見て状況を理解したのか、大人しく男の言う事をきき、俺と背中合わせに手足を縛られ、口に布を詰められ、その上をタオルで覆い、後ろでしっかりと結ばれた。
スー
蒼介から空気が漏れるような音がきこえた。
「もし逃げようとしたらブスリッといくぞ!!」
「んんっ…!!!!」
包丁をちらつかせながら男は俺達を脅し、また部屋を荒らし始めた。
蒼介は男の様子を目で追いながら、大人しく黙っている。
あまり刺激をしても殺されると判断したのだろうか…。
ーーーーーー数分後
「悪く思うなよ」
そう言って男は蒼介の鞄からも財布を抜き取り、逃げてしまった。
蒼介と俺は2人縛られたまま部屋に取り残された。
このままでは誰にも気づかれずに死んでしまうんじゃ…
そう思った俺は必死にもがいた。
「ん…んん」
「隼」
「んんん…っ」
「隼」
「んっ…んん」
「隼!!!」
「ん?!」
いつの間にか蒼介の口から、布が取れていた。
「んん…っ!?」
「結ばれる直前に口に空気を含んでおいたんだ。それに気づかなかった、或いはわざときつく結ばなかったってことは、あの男素人だ。それに、俺達を本気で殺す気もなかったみたいだし」
「…っ」
先程の空気が漏れるような音は、蒼介の口から漏れた空気だったのか…。
「俺が叫ぶから隼はとにかく暴れるんだ。もしかしたら下の階の大家さんが気付いてくれるかもしれない」
俺はコクンと頷き、蒼介の言う通り、体を倒して芋虫のように暴れた。
ドタバタドタバタ
「わーーー!!!!!!誰かーーーー!!!!!!!」
蒼介は大声で叫んだ。
…
しかし助けはこない。
一体どうすれば…
「ダメか…くそ…」
諦めそうになっていた時だった。
「ニャー」
「猫?」
猫は少し開いていた窓の隙間から、俺達の元へきて、蒼介の膝へ擦り寄った。
「お前さっきの…」
「ニャーニャー」
どうやら猫は蒼介に懐いたらしく、撫でてもらおうと蒼介に甘えている。
「そうだ…!一かバチかやってみよう」
「ん?」
「この猫をつかうんだ」
そう言うと蒼介は手を猫に近づけ、猫が近寄ろうとすると離す。
この行動を続け始めた。
俺にはただじゃれているようにしか見えないが…。
「ほらほら〜捕まえてみろ〜」
「ニャッ!」
蒼介の手が猫に捕まった。
猫は蒼介の手に甘噛みをしてじゃれている。
「いいぞ!もっと噛め!」
「ニャー」
ーーーーーー数分後
「そろそろいけるかな…。ふんっ!!!」
蒼介は腕に力を入れて踏ん張った。
ロープがミチミチと音をたて、蒼介の手にくい込んでいる。
「この…っ!!!!」
ビチッという音と共に、蒼介のロープは千切れた。
「よし!」
蒼介は俺の口からタオルと布を外し、ロープを解いてくれた。
「っはぁ…。ありがとう蒼介」
「お礼はこいつに言ってくれ」
「ゴロゴロ」
猫は蒼介の腕に頭をすり寄せている。
俺と蒼介は猫のおかげで脱出出来たのだ。
しかし、猫のおかげとは言ったものの、本当に助けてくれたのは蒼介だ。
蒼介が来てくれて居なかったら…
蒼介が猫に気付いていなかったら…
そのことを思うと俺はゾッとした。
「蒼介、財布ごめんな…」
「命があるだけましだろ?」
「ありがとう」
その後、俺と蒼介は警察に行き、強盗の特徴や盗まれた物を伝え、家に帰った。
ーーーーーーーーーーーー
「おはようございます!!」
今日は朝練に遅刻せず間に合った。
「おはよう、隼。今日は早いな」
「鍵もちゃんと確認したよ」
重いエナメルバッグを下ろし、蒼介と練習前に会話を交わしている時だった。
プルルルルル
「もしもし」
「中村蒼介さんですね。先日はどうも」
「あ、警察の…」
「はい。犯人は無事捕まりましたよ」
「本当ですか!?」
「はい。近所に住んでいたようで、中村さん達を襲った帰りを、ばっちり近所の方に見られていました」
「ありがとうございます!!」
「盗まれた物は財布で間違えありませんか?」
「はい!」
犯人は捕まり、俺と蒼介の財布も無事返ってくるようだ。
「おーい!朝練始めるぞー!」
「「はい!!!」」
『今日の練習はいつもより頑張れそうだ。』
晴れやかな気持ちで俺はコートへと走った。
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