スクールデイズ・パワードスーツ

タイトル命名は、あんずくん様。

登場人物

2人とも、鷹栖台(たかすだい)科学技術専門学校のハイテク技術工学科で学ぶ専門学校生。宇宙開発や深海開発等の平和目的に用いられるパワードスーツの研究に日夜打ち込んでいる。実家は隣同士のご近所で、昔からの幼馴染。

 ひお   りくと

氷魚 莉玖都

男/18歳。一人称は「俺」。

日々パワードスーツの研究開発に熱中して打ち込むあまり、恋愛ごとには非常に淡白。

実衣紗とは幼なじみであり、家族ぐるみでのつき合い。そのため、実衣紗を家族のように思っており、「気兼ねなく話し合える友人」「親友」として信頼している。

 

キャラクターデザインは、yuuki→様。

 いちか  みいさ

苺夏 実衣紗

女/18歳。一人称は「わたし」。

莉玖都とは自宅が隣同士であり、彼の部屋とは向かい合い、空き幅も狭いために窓をまたいで行き来ができる。幼馴染の莉玖都に、実は淡い恋心を抱いている。

 

キャラクターデザインは、夏織リオン様。

イラスト提供は、ゆた様。

イラスト提供は、夏織リオン様。



小説

その1

作:遠坂 絵美 様

「全国新技術展覧会選考会、氷魚くんのパワードスーツが無事に通りました。皆、拍手!」
 教壇でにこやかに担任がそう告げると、教室の中は一気に拍手で溢れかえった。
 鷹栖台科学技術専門学校、ハイテク技術工学科。その三年生のクラスから、全国の研究者たちがこぞって研究成果を発表する場に、出品が決まったのだ。クラスメイト達が自分のことのように喜ぶのも無理はなかった。
 結果を告げられた氷魚莉玖都は照れたように水色のシャツの襟元をあおぎながら教室を見回す。そのうち隣の席の生徒に金に近い茶髪をぐしゃぐしゃにかき回される羽目になった。
 その日の放課後、いつものように莉玖都が正門の前で幼馴染を待っていると、昇降口から女子の一団が出てくるのが見えた。そのうちのひとりが手を振りながら集団を離れて、莉玖都に駆け寄ってくる。
「莉玖都!」
 いつもより声が大きいのはやはりあの結果に興奮しているからだろうか。莉玖都は苦笑していつもより小さめに片手を挙げた。
「やあ、実衣紗」
 後ろにブラウンのロングヘアを残して左右に結ってある髪の房をぴょこぴょこと揺らしながら走ってきた莉玖都の幼馴染――実衣紗は、その手に思いっきりハイタッチをする。
「おめでとう!」
 満面の笑みの実衣紗を見て、莉玖都はようやく実感が湧いた気がした。ほっと息をついて笑む。
「ありがとう」
 公衆の面前でそのまま抱きついてきそうな勢いの実衣紗を引きはがして、莉玖都は歩き出す。ちぇー、などと言いながら実衣紗も隣に並んだ。
 歩きながら、やはり話題は出品の決まったパワードスーツの事だ。莉玖都は学校一研究熱心だと言われているが、実衣紗だって負けてはいない。目を輝かせて質問攻めにしてくる実衣紗に、莉玖都は悪い気はしなかった。

 そうこうしているうちにお互いの家の前に着いてしまう。「氷魚」と「苺夏」の表札がぴったり並んだ、隣同士の家。
「そうだ、実衣紗」
「何?」
「今夜、窓開けといて」
「? 分かった」
 二人の家は近すぎて、窓からお互いの家に行き来ができてしまう。つまりはそういうことなのだろうが、一体何の用なのか。さっさと家に入った莉玖都を実衣紗は首を傾げて見送った。
 夜、実衣紗がベッドにうつ伏せになって携帯端末をいじっていると、開けておいた窓から莉玖都の声が届いた。
「実衣紗。起きてる?」
「あ、うん」
「ちょっとこっち、来て」
 それだけ言って莉玖都は部屋に引っ込む。起き上がった実衣紗は慌てて服の皺を伸ばしてひょいと窓枠を飛び移った。
 実衣紗が莉玖都の部屋に入ってすぐ、そこにパワードスーツがあるのが目に入る。出品が決まったという、噂のものだろう。
「これ……」
「選考会に出したのは試作品なんだけど、こっちは一応の完成形。俺、我慢できなくて選考会中もいじってたんだ。身長とかだいたい実衣紗に合わせてあるから、ちょっと着てみて」
「え、わたしが着ていいの?」
「試乗第一号は実衣紗にしようって決めてたんだ」
 実衣紗は頬が熱くなるのを感じた。そういうことをさらっと言うあたりが、ずるい。でも、こんな機会をふいにするほど実衣紗は照れ屋ではない。何でもないふりを装って着方を教わり、パワードスーツを身につけた。
「すごい、違和感が全然ない」
「細かいところは自動で調整するようにプログラムしてあるんだ」
「へええ……」
 それから二人は莉玖都の部屋でできる範囲の試験を行った。実衣紗は莉玖都に訊かれるまま感想を言い、莉玖都はそれをひたすらメモしていた。
「わたしなんかの意見で参考になるの?」
「なるよ。実衣紗のこと信頼してるからさ」
「……ありがと」
 莉玖都が実衣紗に向けているのはあくまでも信頼。そこが実衣紗のむずがゆいところではあった。
 気付けば深夜になっていた。一通りの試験が済んでパワードスーツを脱いだ実衣紗の顔は喜びの色で満ちていた。
「ありがとう、莉玖都。とっても楽しかった」
「こちらこそ。助かったよ、改善の余地が発見できたからね」
「うん、頑張って」
「勿論」
 それじゃ、と言って実衣紗はまた窓枠を飛び越える。自分の部屋に着地して振り返ると、珍しく莉玖都が赤面して目元を押さえていた。
「莉玖都?」
「実衣紗……」
「何」
「ぱんつ、見えた」
 実衣紗は自分の格好を見下ろす。部屋着にしている、ミニスカートのワンピース。飛び移った時にまくれ上がったのだろうか。
「……馬鹿っ!」
 思わず大声で言ってしまってから、実衣紗はハッと口元を押さえる。幸い、家族は皆ぐっすり寝ているようだった。
 どちらからともなく笑いがこみ上げる。二人は月の光の下、くすくすと笑いあった。